今回の目的は、演劇の原点が詰まっているというフリンジフェスティバルの視察をし、国や文化を超えるストーリーテリングの原点をまとめる事。 観劇作品のサマリーを印象に残った順に記す。ミニマムで何ができるかはとても勉強になった。
1. Truthmachine—真実は存在するのか?嘘発見器体験
*週間フェスティバル賞受賞作品 大学の教室にて10人ずつの体験型。コの字型に並べられた机の上に、各々の嘘発見器が設置されている。真ん中には、代表となる被験者用の椅子。 先ずは、ヘッドフォンを付け、嘘発見器の使い方を学ぶ。灯りが消えるとプライベートな錯覚に陥り、「嘘ついても気づかれない」「気付かれないから恥ずかしくても正直に答えちゃおう」なんて、心理状態が変化する。右に回せば「はい」、左に回せば「いいえ」。「はい」は緑色のランプ、「いいえ」は赤色ランプがつくので、「あっ他の人たちの回答もわかるなあ…」と気づく。「まだ食べられるものを捨てたことがある」という日常的な罪意識から始まり、「自分のことを理解してくれている人がいる」「大切な人についている嘘がある」と一歩踏み込み、鉄板の下ネタまで5つくらいの質問で、質問者のヘッドフォンの声に対して、私たちは運命共同体的な一体感が生まれる。すると、「我こそは真実しか語らない」と断言できるか?と問われ、「はい」と答えた人の中から、一人被験者として真ん中の椅子に座らされる。「嘘」の調査指標である脈・呼吸・汗の変化値が、音別に私たちのヘッドフォンに流れてくる。彼女が嘘をついていないか、私たちが「はい」か「いいえ」で判断していく。本人が「いいえ」と答えても、私達が彼女は嘘をついているに「はい」と答える人が過半数を超えれば、彼女は嘘をついていることになる。
「これが民主主義なのか。」と問われる。歴史的事実と言われるものも、主観(語り手)や民衆が作ってきたもの。客観的な判断材料となる嘘発見器も、数値の変化の読み取り方や観測環境(測定者の目)も大いに影響する。
「真実など存在しない=人それぞれの真実がある」ということを体験。「体験」自体に重きが置かれる体験型は、演劇的要素が弱かったり、深みがなかったりするけれど、「真実」を問うのに、フランス絵画ジャンレオン・ジェロームTruth Coming Out of Her Well to Shame Mankind「人類に恥を知らせるために井戸から出てくる“真実”」や、民主主義についての歴史的発言や嘘発見器の開発者の真意等、様々な引用が用いられているのが良かった。
このヘッドフォン型体験演劇は、他にもミステリー系や飛行機ハイジャックのスリリング系まで人気が高い。ブリスベンフェスティバルではミステリー系を体験したが、足音や話し声が近づいてくる、大衆の話し声から耳元で囁かれる声の距離感等、音作りの凝り方がとても面白かった。このクリエイターCounterpointは、CRUNCH TIMEという作品で、ブリスベンのトニー賞ことマチルダ賞で作品賞を受賞した!(http://counterpilot.com.au) これも民主主義を問う体験型で、多数決で選ばれていく食材を、社会的リーダーである政治家・社長・芸術監督達が調理していくもの。
2. Baba Yaga —お客様は魔女?!ロシアのおとぎ話
唯一観られたアデレードフェスティバルの作品。Windmill’s Theater(ウィンドミルズシアター)は、アデレード発オーストラリアを代表する児童劇団で、昨年のエディンバラ国際児童劇祭やニューヨークのNew Victory Theaterでも好評を博しているカンパニー。アートディレクター兼演出も手がけるローズマリー・マイヤーズさんは、今回視察を促してくれたブリスベンフェスティバルのシニアプロデューサーの方のイチ押しアーティスト。
悪者か善人か掴みにくい魔女らしきおば様が、アパートのペントハウスに引っ越してきた。彼女は住人のルールをことごとく破り、その度、レセプションの女の子はビクビクしながら注意をしにいく。騒音を注意しにいくと、年に一度咲くサボテンの花を咲かせるためだと言われたり、ペット禁止なのに猫の鳴き声がうるさいのを注意しにいくと、一匹の猫がどんどん増えていったり、パーティーは禁止だと注意しにいくと、屋上の屋根を取り外しに行こうとノコギリを持って誘われたり。注意は失敗の連続で女の子は解雇されるが、恐怖の中でフィギュアスケーターになりたかったという夢を思い出し、ハッピーエンド。 おとぎ話をモダンアートの世界観で表現。白い舞台美術に移る映像と芝居の連動が面白さの一つで、面白い効果音と共に、飛び出す仕掛け絵本のような楽しみ方ができた。子供達もツッコミを入れながら、大笑いの50分間だった。
3. Eurydce —女性視点のユーリディシー朗読劇
*週間SA BANK(スポンサー)演劇賞受賞作品
劇場横の裏庭にて、観客は30人くらい。オルフェウスというギリシャ神話で、亡き妻ユーリディシーを取り戻しに黄泉の国へと出かけていく話をユーリディシー視点で描いた作品。 朗読形式で、「脚本家は、オルフェウスの話を書きました。今度は逆の視点から書いてみようと(実際の本の)逆側から書いてみました。これからお話するのは、ユーリディシー側からの話です」と前置きがあってから、その本を読み始める。実際には、スピンオフ。原作で象徴的な「絶対にユーリディシーの方へ振り向いてはいけない。」と言われたにも関わらず、ユーリディシーは「オルフェウス!」と声をかけてしまい、オルフェウスが振り向くと、永遠の別れが訪れるという場面に冒頭で触れつつ、どうしてそうなったか、独自の物語を展開させていく。ユーリディシーは、自らレニと呼ぶ意志の強い5歳児に。スーパーマンやバットマンの格好をして学校に行く、自分の哲学がある。そして、16歳の時に初恋のアリと結婚し、世界は彼一色に。しかし、浮気され、離婚。拠り所が何もなくなったところで、哲学を持っていた5歳の自分を思い出す。アリがやり直したい、戻ってきてくれ。っと言う時には、自ら道を拓く意志が固まっていた。自ら振り向かせ、永遠の別れを選択した。
よくある現代的女性視点。私には2007年「キューティーブロンド」を見て以来、別れとともに自ら道を拓く強さを持つ!は鉄板なので、この解釈に新しさは無かったが、言葉がとても詩的で美しく、お庭で象徴的な木が背景となり、アカペラで歌ったり(サンプラーに合わせて)、女優さんも観客の私たちに語りかけながら話してくれて、アットホームな観劇体験が良かった。女優さん達のお芝居もとても良かった。アクティングスペースを囲む形で座っていたので、他のお客さんとも和やかな雰囲気に。「ファインディングネバーランド」で子供達が裏庭で劇を披露するシーンを思い出した。ユーリディシーは、森の中で毒蛇に噛まれて死んだので、この空間と神話の相性も良く、その雰囲気も連想しやすかった。ただ、蚊に刺されるのが…屋外の夜は対策を。
4. Temporary –シドニーOLの一日コメディ
クラブのロフトで30人弱の観客。一人芝居で効果音の使い方が上手く、コンパクトながら創意工夫を凝らしていた。50分間で、受付嬢の一日を描く。寝坊して遅刻するところから、上司の誕生日祝いを成功させ昇格を夢見るが、大失敗し、最後は仕事を辞めるまで。会社の人達のモノマネを交えつつ、一人複数役を演じ、倍速の日常の動きをコミカルに挟み、特には観客に助言を求めたり、話し相手として使ったり、「こーゆー人、いるいる!こうなる!」と思わせる日常のインサイトが詰まっていた。ぶつかるとクロワッサンが飛び散ったり、上司の誕生日ケーキを受け取りに行くと雨が降ってくるシーンは、音楽転換の間にびしょ濡れになったり、小技も効いててコンパクトにまとまった優秀作品。
5. Inspired —17歳のジャズシンガーが影響を受けた楽曲ライブ
*週間フリンジ賞受賞
中心地にあるホテルリッチモンドの地下にて、観客30人くらい。17歳のSarah Brownridge(The Ron Denning Awardというジャズのボーカル選手権の受賞者)が影響を受けた楽曲で綴る音楽ライブ。キャロル・キングのタペストリーに影響され、自分のストーリーと楽曲が繋がることに喜びを感じていると話す。Natural Womanが大好きな曲。バーバラ・ストライザンド、ジョニ・ミッチェル、シェー、マドンナ、カーペンターズの曲が続いた。 17歳の彼女が今考えてることをリサーチしたくて行ったこともあり、楽曲もテイラー・スウィフトとかレディーガガ、アリアナグランデとかを想像してたが、どの曲もママとのエピソードが盛り込まれ、17歳の彼女には、母親と共感できることが大きいということがよくわかった。Let it goは来るだろうなあ、も予想外れ。確かにいい声だったけど、大人の味わい深さも欲しくなって、選曲はもう少し違ってもいい気がした。懐メロ的に楽しめるのと、17歳であの声の迫力に、今後への期待も含めて票が集まったのだろう。
https://adelaidefringe.com.au/fringetix/inspired-af2019
6. Baby Wants Candy—バンド有りのインプロミュージカル
4年連続エディンバラフリンジフェスティバル完売作品。アデレードは3度目の超人気作。アメリカからのチーム。会場は、Avant Gardenというメイン屋外会場の入り口にあるThe Boxというステージ。80人くらいの観客。
オフブロードウェイのBLANK! The Musicalを体験してしまった私には…でした、ごめんなさい。即興加減(観客への余白)が断然BLANK! THE MUSICALの方があり、あの何とか繋げて作っていく面白さを期待しちゃっていたので。
これは、観客から募るのはタイトルだけ。「Dear Evan Handstand(逆立ちするイヴァンへ)」「Curious George Pal(おさるのジョージを文字って)好奇心旺盛なSF映画監督ジョージパル」と今回決定した「I F**Ked your dad(君の父さんと●ました)」の3つから、拍手が多かった最後のものに決定。離婚したばかりの男性が、助けを求めた親友(男性)に最終的にはプロポーズする。というプロット。歌の構成・キャラクターバランス・歌詞・ハーモニー・4人編成のバンドと完成度が高く、特にバンドは練習してある感じがし、パフォーマー5人も同じ歌詞をサビになるとハモったりと、出来てたものから選択してる感があり、多少芝居部分や歌詞のインプロはあったかもだけど、タイトルしか観客の余白が無いのが残念だった。
一方、THE BLANK!は、振付のスタイル、セリフやメロディーまで、展開ごとに観客が提案し、都度投票し、観客と作っていく(お題に答えていってくれてる)感じがもっとある。ピアノ1本なのも、インプロ感があって、私は好き。その場で創るドタバタ感も好き。NYCのTADA! Youth Theaterという子供の創作ミュージカルを創る団体のサマーキャンプでインターンした時は、このBlank!と同じような感じでフォーマットはある程度あって穴埋め方式でミュージカル創作を5日間でやったので、その場で創られていく楽しみがあった。昨年東京で開催したKAGUYAミュージカルのライブ版「月の宴」では、横関咲栄さんと笹岡征矢さんが、お客様が選んだ役の設定で即興劇をし、“Once in a Lifetime”というラブソングを歌うという企画をやってくださった。それも、その場で決まって本当に即興だったので、ハラハラワクワクな面白さがあった。
そういう即興ならではの面白さを期待してると、今回のはタイトルに合わせて、バージョンAみたいな感じがして、即興度が物足りなかった。でも、ミュージカルコメディとして普通に面白く、お客さんは大盛り上がりだった!
https://adelaidefringe.com.au/fringetix/baby-wants-candy-the-completely-improvised-full-band-musical-af2019
7. Umbrellaman —世界地図の傘と共に旅漫談
ワインナショナルミュージアムで開催+即興でのピアノ演奏を交えながら+22時開始という3点に魅力を感じて行った。が、正直、はしごの最後が22時では、ほとんど話が耳に入ってこなかった…ワインミュージアムも楽しみにしてたけど、この作品の会場自体は、ごく普通の白い壁の会議室だったし。
アイルランド出身の役者さんが、オーストラリア人の観客にイギリスやスコットランドと一緒にされがちなアイルランドの小話からはじめ、エディンバラフェスティバルでの話、エディンバラのサブウェイでバイトしてた時の話(これはピアノ生演奏で弾き語り)、中国の詩人に影響を受けて書いた詩の披露等、観客に話しかけながら話していく。雨の音が所々使われてたからUmbrella Manだったのかな…。予定では50分だったが、結果的に75分も漫談をしてくれて、私の頭は溶けてしまっていた…ごめんなさい。でも、小話的に話し始めた彼が、ピアノの弾き語りになると、かなりセクシーなバリトンで、サブウェイのサンドイッチ愛を歌ってくれたのは強烈に覚えてる。
<番外編>
* House of Mirror—鏡の中の迷路 昨年ブリスベンで体験したので、今回はやらなかったけど、遭遇したら、是非体験してみて!初めは、おもしろ写真が撮れてテンション上がるけど、本気で迷子になる…
*That Darling Australian Girl
かなり観たかったのに、まさかチケットに表記されてる会場が違ったため、観られなかった…バラ園横のガレージで上演される予定の女性一人芝居。イギリスの女性参政権運動に寄与したオーストラリア人女優Muriel Mattersの実話を元にした歴史物。ロンドンとエディンバラフリンジでも上演され、昨年のアデレードフリンジ週間演劇賞受賞作品。
<フリンジ作品より>
導入とオチが欲しい!中身のテンポ感は早い方がいい。1時間前後の作品をたくさん観る&始めてみるお客さんが多いので、何を期待すればいいか導入がハッキリしてて、最後にこういうことねっとオチがつくと、1時間の満足感が違う
お酒飲みながらor飲んだ後に観て楽しめるネタを挟むのが大事
パフォーマー1−2人に音響・照明等の操作をする人1−2人のコンパクトなチームだからこそ音の使い方が面白いと印象に残った
お客さんとの距離感は、空間に入ってきた時にほぼ決まる。(アットホームに歓迎されるか、照明が明るいか暗いか、チケットもぎりをされて通常の劇場のように席に誘導されるか等々、開演直前に席に誘導されることが多いので、どう導くか体験の始まりになっている)
通常の観劇と比べて、自分もフェスティバルに「参加」している意識があるので、絡まれたり、参加するインタラクティブな要素(一緒に歌う・手振りをする等)があるのも、劇場型よりノリやすい
ノンバーバルなインタラクティブ作品に今回は出会えなかったので、これは創ってみたい。その際、音楽はとても重要。Macで音を作りながら流したりしてる人達もいたのに感化され、私もGarage bandをちゃんとマスターしたいと思った!
上演後、大体はアーティストが残って話したい人達と話す時間がある。喜んでフィードバックしたい人達が必ずいたので、「グレートコメット」の演出家レイチェルが、フリンジで批評家と出会ったのがすべての始まりだった。と言っていたのも、あり得るのかもしれない。ただ、そのインタビュー記事のタイトルが「シンデレラストーリー」だったので、起きたのは奇跡的だったのだろう。色々な人達と話す機会としては面白い
<次のフリンジ来るなら>
作品は受賞作品・ボックスオフィスで売れている作品を聞いて、ジャンルを問わず観てみよう!(律儀にウェブサイトの情報を吟味して選んだが、情報が不十分だったり企画は面白そうでもアウトプットはそこまででもなかったりしたので)
まずは、メイン会場に行ってみよう! 今回は、空間も面白そうな場所を選んだが、移動が多い割に、その空間でしかできないような空間の活用の仕方をしているものには出会えなかった。なので、屋台等が並ぶメイン会場に行って、目玉コンテンツをまずは押さえてみるという1日目でも良かったなあと思う
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